新リース会計基準が企業の資金調達に与える影響と対策

新リース会計基準が企業の資金調達に与える影響と対策

企業会計の世界で大きな変革となっている「新リース会計基準」。この基準変更は、単なる会計処理の変更にとどまらず、企業の財務状況や資金調達戦略に多大な影響を与えています。特に、これまでオフバランス処理されていた多くのリース取引がオンバランス化されることで、企業の財務指標に大きな変化が生じています。本記事では、新リース会計基準の概要から企業の資金調達への影響、そして実践的な対策までを詳しく解説します。会計基準の変更は複雑ですが、適切な準備と戦略的対応によって、その影響を最小限に抑え、むしろビジネスチャンスに変えることも可能です。財務担当者から経営者まで、この変革に対応するための実践的な知識を提供します。

目次

1. 新リース会計基準の概要と変更点

新リース会計基準は、国際会計基準審議会(IASB)や米国財務会計基準審議会(FASB)、そして日本の企業会計基準委員会(ASBJ)によって公表された新たな会計ルールです。この基準は、リース取引の経済的実態をより適切に財務諸表に反映させることを目的としています。

1.1 IFRS第16号とASU2016-02の基本フレームワーク

国際会計基準(IFRS)第16号「リース」と米国会計基準のASU2016-02「リース」は、リース会計の透明性と比較可能性を高めることを目的として導入されました。両基準の最も重要な変更点は、借手側のリース取引について、従来のオペレーティング・リースとファイナンス・リースの区分を実質的に廃止し、ほぼすべてのリース取引をオンバランス処理することを要求している点です。

IFRS第16号では、短期リース(12ヶ月以内)と少額資産のリースを除き、すべてのリース取引について使用権資産とリース負債を計上します。一方、米国基準では、オペレーティング・リースの区分は残しつつも、オンバランス処理を要求しています。この変更により、航空会社、小売業、ホテル業など、多くのオペレーティング・リースを利用している業種に特に大きな影響が生じています。

1.2 日本基準における新リース会計基準の特徴

日本の企業会計基準委員会(ASBJ)は、国際的な会計基準とのコンバージェンスを進める中で、新リース会計基準の検討を行ってきました。2022年2月に公表された改正リース会計基準案では、国際的な会計基準と同様に、借手側のリース取引についてオンバランス処理を原則としています。

項目 現行日本基準 新リース会計基準(案)
オペレーティング・リースの処理 オフバランス(注記開示のみ) 原則オンバランス
適用対象 ファイナンス・リースのみ ほぼすべてのリース(短期・少額資産を除く)
適用時期 2025年4月1日以後開始する事業年度から(予定)

日本基準の特徴として、IFRS基準と比較して、一定の経過措置や実務上の配慮が設けられている点が挙げられます。また、日本独自の「所有権移転外ファイナンス・リース取引」の概念も、新基準においてどのように扱われるかが注目されています。

2. 新リース会計基準が企業財務に与える影響

新リース会計基準の導入は、企業の財務諸表に広範囲にわたる影響を及ぼします。特に、これまでオフバランスだったリース取引がオンバランス化されることで、貸借対照表や主要な財務指標に大きな変化が生じます。

2.1 貸借対照表への影響と財務指標の変化

新リース会計基準の適用により、企業の貸借対照表には「使用権資産」と「リース負債」が新たに計上されることになります。これにより、総資産と総負債が同時に増加し、財務レバレッジに関連する指標に大きな影響を与えます。

例えば、小売業や航空業などリース取引を多く利用する業種では、総資産が20%以上増加するケースも珍しくありません。実際に、日本の大手航空会社では、新リース会計基準の適用によって総資産が約30%増加し、自己資本比率が25%から19%に低下するという試算結果が公表されています。

主な財務指標への影響は以下の通りです:

  • 自己資本比率:分母(総資産)の増加により低下
  • ROA(総資産利益率):分母(総資産)の増加により低下
  • D/Eレシオ(負債資本比率):負債の増加により上昇
  • EBITDA:減価償却費の増加により上昇

これらの変化は、財務制限条項(コベナンツ)に抵触するリスクをもたらす可能性があり、企業は金融機関との事前協議が必要となるケースもあります。

2.2 損益計算書への影響と利益構造の変化

損益計算書においても、新リース会計基準は重要な変化をもたらします。従来のオペレーティング・リースでは、リース料は定額で費用計上されていましたが、新基準では「使用権資産の減価償却費」と「リース負債に対する支払利息」に分解されます。

この変更により、費用認識のパターンが「前加重型」になります。つまり、リース期間の前半により多くの費用が計上される傾向があります。これは、リース負債の残高が大きい初期段階では支払利息も大きくなるためです。

例えば、10年間・年間リース料100万円のリース契約の場合、従来の方式では毎年100万円の費用計上でしたが、新基準では初年度に約110万円、最終年度に約90万円というように、費用認識が前倒しになります。

また、営業利益と金融費用の区分にも影響があります:

EBITDA(利息・税金・減価償却費控除前利益)は増加する傾向にありますが、これは従来リース料として計上されていた費用の一部が、使用権資産の減価償却費と支払利息に分解され、EBITDAの計算では支払利息が除外されるためです。

3. 新リース会計基準導入による資金調達への具体的影響

新リース会計基準の導入は、企業の財務指標に影響を与えるだけでなく、資金調達の方法や条件にも大きな変化をもたらします。特に、負債比率の上昇や格付けへの影響は、企業の資金調達戦略を見直す契機となっています。

3.1 負債比率の上昇と借入能力への影響

新リース会計基準によりオンバランスされるリース負債は、企業の負債比率を上昇させます。この変化は、特に金融機関からの借入条件に影響を与える可能性があります。

実際の影響例として、日本の大手小売チェーンでは、新リース会計基準の適用によって負債比率が1.2倍から1.8倍に上昇し、一部の借入契約に含まれる財務制限条項に抵触するリスクが生じました。この企業は金融機関と協議を行い、財務制限条項の見直しを行うことで対応しています。

また、金融機関側も新リース会計基準の影響を考慮した審査基準の見直しを進めています。多くの金融機関では、会計基準変更の影響を除外した「調整後財務指標」を用いて企業評価を行う動きも見られます。しかし、根本的には負債の増加は事実であり、特に財務体質が脆弱な企業においては、借入条件の厳格化や金利上昇のリスクが高まっています。

3.2 格付けへの影響と資金調達コストの変化

格付け機関は、新リース会計基準の導入に対して、基本的には「格付けへの中立的な影響」という見解を示しています。これは、従来からオフバランスのリース債務を格付け評価に織り込んでいたためです。

しかし、実際には一部の企業で格付け見直しの動きも見られています。例えば、国際的な格付け機関は、航空業界の一部企業について、新リース会計基準適用後の財務状況を踏まえて格付け見通しを「安定的」から「ネガティブ」に変更しました。

資金調達コストへの影響については、以下の表のように業種によって差があります:

業種 リース依存度 資金調達コストへの影響 対応策
小売・流通 高い 中〜大 リース契約の見直し、自己資本強化
製造業 中程度 小〜中 資産購入方針の見直し
IT・サービス 中程度 小〜中 サブスクリプションモデルの検討
金融業 低い 限定的 開示情報の充実

4. 企業が取るべき実践的対策と準備

新リース会計基準への対応は、単なる会計処理の変更にとどまらず、経営戦略の見直しも含めた包括的なアプローチが求められます。ここでは、企業が取るべき具体的な対策と準備について解説します。

4.1 リース契約の見直しと最適化戦略

新リース会計基準の影響を軽減するためには、既存のリース契約の見直しと最適化が重要です。具体的な戦略としては以下が挙げられます:

  • 短期リース(12ヶ月以内)への移行検討(オンバランス対象外)
  • リース期間の見直し(必要最小限の期間設定)
  • 変動リース料の活用(売上連動型リースなど)
  • リースとサービス契約の分離(サービス部分はオンバランス対象外)
  • 購入とリースの経済性比較の再評価

例えば、新リース会計基準に対応したある製造業では、工場設備のリース契約を見直し、固定リース料部分を削減して変動費部分を増やす契約改定を行い、オンバランス資産を20%削減することに成功しています。

4.2 財務コミュニケーション強化策

新リース会計基準の適用は、財務諸表の見た目を大きく変えるため、投資家や金融機関との適切なコミュニケーションが不可欠です。効果的な財務コミュニケーション強化策としては:

投資家向け説明資料の充実:会計基準変更の影響を明確に説明し、調整後財務指標も併記することで、実質的な事業パフォーマンスの変化がないことを示します。例えば、「新基準適用前後の比較表」や「調整後自己資本比率」などの指標を提示することが効果的です。

金融機関との事前協議:財務制限条項への影響を事前に試算し、必要に応じて条項の見直し交渉を行います。会計基準変更による一時的影響を除外する特約の追加なども検討すべきでしょう。

格付け機関への積極的な情報提供:新基準適用後の財務見通しや対応策について、格付け機関に対して詳細な情報提供を行うことで、格付け見直しのリスクを軽減できます。

4.3 内部管理体制の整備とシステム対応

新リース会計基準に効率的に対応するためには、内部管理体制の整備とシステム対応が不可欠です。特に、以下の点に注力すべきです:

リース契約管理システムの導入・更新:すべてのリース契約を一元管理し、使用権資産とリース負債の計算を自動化するシステムの導入が推奨されます。株式会社プロシップなど、新リース会計基準に対応した会計システムを提供するベンダーも増えています。

社内教育プログラムの実施:財務部門だけでなく、調達部門や事業部門も含めた横断的な教育が重要です。新基準がビジネス意思決定に与える影響を理解することで、より戦略的な対応が可能になります。

リース契約の承認プロセス見直し:新基準下では、リース契約の締結がより直接的に財務諸表に影響するため、承認プロセスの厳格化や財務部門の関与強化が必要です。例えば、一定金額以上のリース契約については、財務インパクト分析を義務付けるといった対応が効果的です。

まとめ

新リース会計基準は、企業の財務諸表や資金調達戦略に大きな影響を与える重要な変革です。特に、これまでオフバランスだったオペレーティング・リースがオンバランス化されることで、負債比率の上昇や財務指標の変化が生じます。しかし、この変更は単なるリスクではなく、財務戦略や資産調達方法を見直す絶好の機会でもあります。

企業は、リース契約の最適化、財務コミュニケーションの強化、内部管理体制の整備など、包括的な対応策を講じることで、新リース会計基準の影響を最小限に抑えることができます。特に重要なのは、会計基準の変更を単なるコンプライアンス対応として捉えるのではなく、経営戦略の一環として積極的に活用する視点です。

株式会社プロシップをはじめとする専門ベンダーのソリューションも活用しながら、新リース会計基準への移行を円滑に進め、持続可能な資金調達戦略を構築していくことが、これからの企業経営において不可欠となるでしょう。

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